待機児童問題と保育園不足問題 ~その3:【理想と現実のギャップ】根本的な原因と解決策~
保育士が増えない原因は何か
前回、保育士が増えない原因として主に以下2つが考えられると書きました。
1.保育士の給与(給料)問題 〜保育園自身が給与改善できない実情〜
2.保育園と保育士のマッチング問題 ~保育士が描く保育(園)の理想と現実のギャップ~
今回は2つ目の「保育園と保育士のマッチング問題」の原因と解決策について考えていきます。
※前回の記事は「待機児童問題と保育園不足問題 ~【保育士の給与】根本的な原因と解決策~」です。
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保育園と保育士のマッチング問題について
次に取り上げるのは、保育園と保育士の「理想と現実」や「現場」でのマッチング問題です。
単純に子どもが好きだから保育士になったという人でも、現実は子どもと接することに加え事務作業や親への対応等に追われ理想の保育ができないという話を聞きます。
また、一概に保育(保育園)と言っても、保育園ごとに子育ての理念は異なり、保育の考え方や方法、勤務形態や待遇などの働き方は全く異なります。
そのため、自分が考える保育・働き方に合う保育園もあれば、もちろん合わない保育園ももちろんあります。
しかし、勤務した保育園が自分の理想と合わなかった場合に「務めた保育園=保育業界全体」と思い保育園を辞め、保育業界自体を去ってしまう保育士も少なからずいると、何園かお話しした園長先生が仰っていました。
中でも、特に保育実習の場合に多く、保育士の卵の状態のまま保育士になることを諦めてしまうとのことです。
(ここは保育園業界に限らず、一般的な企業でも同じことが言えますが。)
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保育園と保育士のマッチング問題の解決策に関する考察
上記で述べた通り、マッチング問題では大きく以下2点の問題があると考えられます。
1.<時間の問題>事務作業に追われ保育ができない=子育ての時間が確保できない
2.<保育スタイルの問題>自分が思っていた保育とのギャッブがあった
では、それぞれの原因と解決策はどのようなことが考えられるのでしょうか。
1.<時間の問題>保育士という業務(仕事)の内容に対する理想と現実のアンマッチ
根本的な原因は?
子どもと触れ合う仕事に憧れていたが、思った以上に現実は子どもに触れ合えなかった。
言い換えると、子どもと触れ合う保育以外の事務作業がたくさんあったという話を頻繁に耳にします。
例えば、連絡帳や保育指導計画などの書類は、保育中は子どもを見る必要があるためこれらを書くことができず、昼休みや自宅に帰ってやっているケースがあると聞きます。
他にも、事務作業の中には「時間がかかるけれど、子どもたちの成長に本当につながているの?」と思うような形式的な書類や、もう形骸化しているけれども惰性で続いている処理などがあるのが現状です。
私自身、保育園の業務効率化のため、多数の園に訪問しましたがこういったケースを多々目にしました。
もちろん、上記以外にも「保育」という、子どもの健康を守りさらには命を預かる大変さ、そして親とのコミュニケーションの難しさなど、現場の厳しさや過酷さというのもあります。
そして、前回の記事「待機児童問題と保育園不足問題 ~【保育士の給与】根本的な原因と解決策~」で書きましたが、子どもの健康や強いては命を預かる責任ある仕事・負担が大きい仕事の割には、それに見合った給料になっていないということも相まって、悪い意味の相乗効果も生まれているとは思います。
解決策は?
保育業務の運用フロー(事務作業)や書類の見直し
まず単純で最も効果が高いのは、運用面の見直しです。
そもそもこの資料は作る必要があるのか、なぜこの資料を作る必要があるのか、まずは疑いの目から考えてみる必要があります。そして作る必要がある場合、全てを作る必要があるのかを考えることも重要です。
これら全てのことは自分たちで判断することは難しいと思います。その場合、気になった部分を洗い出し、対象が自治体に提出する書類や監査対象となる書類の場合は、各自治体の保育係に質問すると答えてくれます。
私も保育園の各種書類全部目を通して、客観的な目線で園長や主任・現場の保育士など様々な人に聞いて、これなんだろうと思うものがありました。そして質問を聞くとみんなが「とりあえず昔から・・」「理由はわからない」といったことを回答するものがあり、それらをまとめて自治体の窓口に聞いて、ザクザク仕分けをしていきました。これだけでだいぶ業務が楽になります。
システム(IT)を活用した、事務作業や書類作成の効率化(自動化)や保育士同士の共有の円滑化
上記で書いた通り、様々な業務や書類に関して取捨選択・統廃合を行い運用を見直すことだけでも、かなり無駄を無くすことができ、保育業務を効率化することができます。
ただ、それでも無くせない運用や書類などはいくつかあります。
そこからはITシステムを活用した事務作業の効率化の出番です。(ICT化)
私が関わった開発では以下のようなことを行いました。
例)
・自治体に提出する書類をボタン一つで自動的に作成
・監査処理も(監査用に直前に色々と準備せず)毎日、入力していたデータをそのまま監査書類として活用
・保育士同士の子ども体調不良や保護者からの連絡事項・保護者への伝達事項など、共有事項の一元化(伝言ゲームを無くして情報を適切に素早く共有)
などなど
2.<保育のスタイルの問題>考え方ややり方に対する理想と現実のアンマッチ
根本的な原因は?
一概に保育といっても、園によってそのスタイルはことなります。一つの例として理念レベルで言えば、体育に力を入れているところもあれば、知育に力を入れているところもあります。
食育に力を入れているところもあれば、音育に力を入れているところもあります。
このように、何をベースにして子ども達の無限の可能性を伸ばすか一つをとっても、どの保育園も異なっています。
その上、子どもとの接し方についても園によってスタイルが異なります。
賛否両論あることですが、子どもに自由にさせる園もあれば、先生が子ども達を誘導する場合もあります。
こうして並列すればきりがないほどに、一言で保育園といっても園によって特色が大きく違います。園によって子育てという保育の考え方・方法・カリキュラム、それに関連する書類の書く量・内容、シフトや休み等の勤務形態の融通・業務量、様々です。
そういった背景もあり、冒頭で書いた通り、保育士資格を取得するために保育実習で現場に入った時に、自分が考えていた保育の形とは全く異なると落胆して、保育士資格はとったものの保育士にならないというケースがあるそうです。
解決策は?
ただ、この問題は保育業界に限らず、一般的な企業でも近年マッチングミスによる早期退職がよく話題になっており、社会的な問題にもなっているのも事実です。
ただ、企業であれば、いろいろな企業が集まる企業説明会やマッチングサイト、最近ではインターンシップなどが豊富ですが、保育園業界のマッチングは一般企業ほどにはその仕組みがなく、一般企業以上に「色々な保育園を知る」という機会と選択肢が狭まっているのが現状です。
いくつかの保育園の園長先生とお話しさせて頂いた際、保育実習段階では、「保育を学ぶ」という要素だけではなく、「自分に合った保育スタイルの保育園を見つける」といった機会を設ける、またはそういった仕組みを作ることが重要だということを皆さんがおっしゃっていました。
ただ、これらの問題解決は一筋縄でいくものではありません。
一つの園だけでは解決できないからです。
地域の園や行政と連動して合同説明会のような場を設けたり、IT使ったマッチングサイトなども必要になってきます。
時間が掛かる部分や乗り越える問題点は多々ありますが、マッチング精度を上げることが、保育資格を持っている人が保育業界を去る足止めにつながり、保育士不足を解消する手立てになると考えています。