生きる力を育む三位一体の思考法 ~仕事にも通じるロジカル・クリティカル・ラテラルシンキングを身に付ける~
論理的な思考法だけでは生き残れない時代に
ロジカルシンキング(論理的思考法)とは
「ロジカルシンキング」(=論理的思考法もしくは垂直思考法)という言葉を近年、良く耳にすると思います。
ロジカルシンキングは世の中の事象(課題・問題)を過不足無く分解して、それを解決するための手順・事項(タスク)を効率的に組み立てる思考法です。
※ちなみに、問題を解くための手順の型(やり方)を「アルゴリズム」と言います。
この力を身に付ければ、誰しもが同じ解に効率良くかつ正確にたどりつくことが容易になります。
言い換えると、ロジカルシンキングを身に付けることは問題解決能力を身に付けることに繋がるといえます。
そのため、様々なビジネスシーンでロジカルシンキングを求められることが多くなっています。
ロジカルシンキング(論理的思考法)だけでは不十分!?
しかし、近年はグローバル化が進み、急速な変化がある中で、求められる問題解決能力にも変化が生じています。
それは、様々なビジネスシーンにおいて今まで通用していた手法(アルゴリズム)が通じなくなりつつあり、連続的な改善(=今までの延長線上にある改善)では他社に追い付けないため、非連続的な新しいやり方(=今までの延長線上とは別次元の発想)が求めらる状況が生まれています。
こういった状況に対しては「ロジカルシンキング(論理的思考法)」は非常に弱いのです。
そして、こういった状況にも役立つ思考方法が「クリティカルシンキング(批判的思考)」や「ラテラルシンキング(水平思考)」です。
それでは、以下に各思考法がどういったものか、具体的な事例を交えながら紹介していきます。
(事例)カメラのフィルムの製造・販売を取り扱う企業A社
A社はここ数年、ゆるやかではありますが利益低下の状況が続いていました。
そこで、役員で集まり、この状況を打破する(=利益を向上させる)ための経営施策を考えることにしました。
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ロジカルシンキング(論理的思考法)とは
物事を過不足無く分解して、それを解決するための手順を効率的に組み立てる思考法
ロジカルシンキングは冒頭でも書いたとおり、世の中の事象(課題・問題)を過不足無く分解して、それを解決するための手順・事項(タスク)を効率的に組み立てる思考法です。
少し噛み砕いて言い直すと、ゴールに向かって一つずつステップを順序立てた思考法です。
それでは、ロジカルシンキングを用いて上記の企業A社の課題(利益が横ばいから低下の状況)に取り組むためには具体的にどういったことができるのでしょうか。
問題の本質を追及するのに役立つイシュー・ツリー(問題解決の木)
問題の本質を追及していくためのロジカルシンキングの思考法の1つとして「イシュー・ツリー(問題解決の木)」というものがあります。
「イシュー・ツリー」は、考えられる原因を論理的に抜けやモレがないよう把握するために、原因の仮説をツリー(木)状にしてわかりやすく示します。
それでは、今回の事例(課題)を、イシュー・ツリーを用いてロジカル(論理的)な思考法で解いてみます。
利益向上の施策をイシュー・ツリーを用いて紐解く
今回の事例の課題解決の目的を「利益向上」と置いたとします。
以下のように課題(問題)解決のために、大きな問題を小さな問題に分解することで、どこに手を付けるべきか考えることができます。
上記のように「利益」というのは「売上 – 経費」で構成されるため、利益を向上させるためには売上を増加させるか、経費を削減するかに分解することができます。
更に「売上」に焦点を絞ってみた場合、売上は「客単価 x 顧客数」で決まるため、この2つに分解することができます。(この2つを向上させることが売上向上につながる)
更に「客単価」は客1人あたりが1回で購入する「商品単価 x 商品数」、「顧客数」は「新規 + リピーター」などに分解することができます。
もちろん、「商品単価」「商品数」「新規」「リピーター」も分解する指標によって分解する形は変わりますが、これらも更に分解することができます。
ここで、例えば上記のように分解している仮定で、ここ数年「販売数」と「リピーター」が下がっていることを見つけたとします。
その場合、ロジカルなアプローチを行う場合は、「販売数」と「リピーター」を伸ばすための解決策を考えます。
パッと思いつくのは以下のようなものでしょうか。
・自社製品のお勧めの使い方を教えるセミナーを実施する
・キャンペーンを行う
・自社フィルムを用いたフォトコンテストを行う
・CMを打つ
このように大きな問題を小さな問題に「分解する」ことは「原因(問題点)の発見」と「解決策の検討」をしやすくします。
問題を小さくすることで、利益が横ばいの原因を探り、かつどこに力を入れることで、同じ費用・時間を掛けたときにリターンが大きいか(費用対効果)を検討するための解決策を考えやすくすることができます。
なお、上記のような見た目の思考法からも分かる通り、ロジカルシンキング(論理的思考法)は、問題を垂直方向に分解・統合して考えていくため、別名「垂直思考」とも言われます。
「なぜ」による問題の原因追及が重要
ちなみに、上記の事例ではイシュー・ツリーを用いた問題解決の思考法(ロジカルに考える手順)を簡単に伝えるために、「販売数」と「リピーター」が下がっているという事実を見つけた際にすぐに解決策を出す形としましたが、実践ではこのやり方は荒いため不十分ではあります。
本来は「販売数」と「リピーター」が下がっていることを見つけた場合、更にそこから深堀して「なぜ」を考える必要があります。
「なぜ」を追及することで、より問題を明確化することができ、問題の根本原因を探ることができます。
そして、この「なぜ」による問題の原因追及(仮説)の精度が高いほど、それに対する解決策もより具体的で的確なものとなります。
といったように、よくある一般的な考え方(回答)の1つとしては、上記のようなことが行われると思います。
いわゆる、ロジカルシキング(論理的思考法)としてはこれで○かもしれません。
しかし、果たしてこれが本当に最善の考え方(思考法)なのでしょうか。
(言い換えると、この考え方(思考法)で導き出された回答は最善なのでしょうか。)
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クリティカルシンキング(批判的思考法)とは
批判=物事をそもそも論から考え直す思考法
ここで、次に登場するのが「クリティカルシンキング」の出番です。
先ほど最後に「果たしてこれが本当に最善の考え方(思考法)なのでしょうか。」と書いたように、今一度、立ち止まって「現状の課題及び解決策に対して、改めてそもそも論から考え直す」ような思考法を「クリティカルシンキング(批判的思考法)」と言います。
ただし、1点注意が必要なのが「批判」と「否定」は違います。
クリティカルシンキングはあくまで「批判」することであり、ただ単に「否定」することとは違います。
そのため、ある事象に対して批判をしてみた結果、元々の考えが正しい場合は、元々の考えを採用すべきなのです。
クリティカルシンキングで利益向上の施策に盲点が無いか探る
先ほどの事例の続きです。
一般的な思考法では
「利益減少」→「この状況を打破」→「売上/経費の構造改革による利益向上」
という流れにたどり着くと思います。
そして、そのための問題を洗い出し、施策を組立てるのはロジカルシンキングというお話をさせて頂きました。
しかし、クリティカルシンキングにおける批判では、
「利益向上を図るにあたり、本当に売上/経費の構造を洗い出し・見直すことが最善の策なのか?」
ということを行います。
更には、
「数年利益低下が続いている状況を打破するにあたり、来年度、利益構造の改革をすることが本当に真なのか?」
といったことや
「そもそも、現状のカメラのフィルムの製造・販売における利益低下の状況はそもそも(解決すべき)問題なのか?」
といったことを、様々な観点から批判して考え直します。
前提や目的を「そもそも論から今一度考えてみる」、単純にこれを行うのがクリティカルシンキングです。
批判を行うことで見えてなかった問題や解決策、思い込みを打破する
上記事例で挙げた批判に関して、
それは意味があるのか?
ただのいちゃもんではないのか?
と思うかもしれませんが、冒頭で述べた
近年はグローバル化が進み、急速な変化がある中で、
・ビジネスシーンにおいて今まで通用していた手法(アルゴリズム)が通じなくなりつつある
・連続的な改善(=今までの延長線上にある改善)では他社に追い付けないため、非連続的な新しいやり方(=今までの延長線上とは別次元の発想)が求められる
・ビジネスシーンにおいて今まで通用していた手法(アルゴリズム)が通じなくなりつつある
・連続的な改善(=今までの延長線上にある改善)では他社に追い付けないため、非連続的な新しいやり方(=今までの延長線上とは別次元の発想)が求められる
という状況下においては、今までどおりの思考法(ロジカルシンキング)及びその延長線上の改善程度では時代の流れに追いつくことができません。
今回のフィルムの製造・販売を行っているA社の事例において、そもそもフィルムの市場が日本だけでなく世界的に見ても縮小傾向だったとします。
その場合、どれだけ頑張ってフィルムに対する売上/経費の構造を改革しようとしても、その市場(母数)自体に限界がある場合、どの解決策も一時凌ぎにはなるかもしれませんが、本当の意味での根本解決には繋がりません。
結果論ではありますが、今回の事例は皆さんがイメージしやすいようにフィルム市場を例として取り上げました。
フィルムのみを取り扱っていた会社がどうなったかは、ほとんどの方がご存じのように、デジカメやカメラ付き携帯の台頭によって、大半のフィルム企業は日本だけでなく世界から無くなりました。
パラダイムシフトが起こっている市場(業界)では同様の事例は多数あると思います。
さて、ではクリティカルシンキングにより、元々の前提や目的を「批判」してみた結果、「市場自体が縮小しているのならフィルム事業に対する利益向上施策を考えることはそもそも論として考え直すことには一理あるかも」という1つの結論(可能性)が出たとします。
(もちろん、元々のロジカルシンキングで導き出された問題・解決策も、当課題の選択肢の1つとしては残ったままでOKです。)
その場合、次の一手に役立つ思考法が「ラテラルシンキング」です。
ラテラルシンキング(水平思考法)とは
別の視点からの新しい発想を生み出すための思考方法
ラテラルシンキングは「水平思考」と言われ、既成概念に捉われず、別の視点からの新しい発想を生み出すための思考方法です。
ラテラルシンキングで新しい発想を生み出す
先ほどのフィルム企業A社の事例で考えてみましょう。
たとえば、一歩引いてみたときに、
- そもそもその会社が行っている事業が市場全体として縮小傾向にある
- そうした場合は、「既存製品が通じる別の市場の開拓・投入」が一番に考えるべき経営課題かもしれません。
- パラダイムシフトのように市場自体が変化している
(先ほどの事例のようにフィルムからデジカメにカメラ市場が変化、新聞や雑誌からWEBに市場が変化など) - より利益は少なくなりますが、今後中長期的に会社が生き残っていくために、新製品の開発への投資が一番に考えるべき経営課題かもしれません。
このように、「利益が低迷している状況なので、現状の売上・経費構造を見直して利益を上げる」というのが最善の策ではないといった可能性が見えてきます。
富士フィルムの事例にみるラテラルシンキング
縮小傾向にあったフィルム市場の企業において、まさにこのラテラルシンキングの事例が当てはまるのは「富士フィルム」ではないでしょうか。
社名にフィルムという名が付くように、当初、フィルム事業が主事業となっていた富士フィルムですが、今では会社の売上構造(ポートフォリオ)は全くの別物となっています。
富士フィルムの現在の売上の柱の1つとなっているのが「化粧品」事業です。
ここでは詳細は割愛しますが、当時、富士フィルムはフィルム市場の縮小を受けて、フィルム事業自体にテコ入れをするのではなく、新規事業で新たな売上を作り出すことを模索していました。そうした中、フィルム事業で培った粒子を扱うの技術が化粧品にも転用できるのではと考えたことがきっかけと言われています。(具体的には、化粧品を既存製品よりもっと細かな粒子レベルで扱えるようになれば、より肌に浸透する化粧品を作ることができ、他社差別化ができるのではないかといったものです。)
現在の化粧品の商品化に至るまでは想像できないほどの苦労があったと思いますが、まさに発想の転換(様々な視点で見てみること)により生まれた商品と言えます。
生きる力を育む三位一体の思考法
一緒に考えることで相乗効果を生み出そう
改めて冒頭で述べた
近年はグローバル化が進み、急速な変化がある中で、
・ビジネスシーンにおいて今まで通用していた手法(アルゴリズム)が通じなくなりつつある
・連続的な改善(=今までの延長線上にある改善)では他社に追い付けないため、非連続的な新しいやり方(=今までの延長線上とは別次元の発想)が求めらる
・ビジネスシーンにおいて今まで通用していた手法(アルゴリズム)が通じなくなりつつある
・連続的な改善(=今までの延長線上にある改善)では他社に追い付けないため、非連続的な新しいやり方(=今までの延長線上とは別次元の発想)が求めらる
このことに順応して生き残っていくためには(生きる力を身に付けるためには)、ロジカルシンキング(論理的思考法もしくは垂直思考法)だけでは不十分なケースがあります。
言い換えれば、クリティカルシンキング(批判的思考法)やラテラルシンキング(水平思考法)と組み合わせて考えることで、非連続的な(別次元の)成長を遂げることができる可能性が高まります。
上記の事例でも述べたように、この3つの思考法である「ロジカルシンキング」「クリティカルシンキング」「ラテラルシンキング」は別々に行うものではありません。
三位一体で扱うことで相乗効果を生み出すことができるものです。
子供の頃から三位一体の思考法を鍛える環境作り(教育・社会)を
これらの思考法を子供の頃から身に付けておくことは、社会に出た時に、生きる力に大きく繋がります。
大人になってからも鍛えることはできますが、大人になってから染み付いた既成概念や思考法(考え方)を変えるのにはとても労力が掛かるため、子供の頃から鍛える(子育ての環境や教育に取り入れる)方が鍛えやすいとは思います。
ちなみに、あくまで私の主観なのですが、現在の日本の環境(教育・社会)においては、
子供の頃はクリティカルシンキング・ラテラルシンキングの思考力を持っているが、大人になるにつれて(ロジカルシンキングは強くなっていくが、反面)クリティカルシンキング・ラテラルシンキングが弱まっていく傾向にあると感じています。
その理由として、子供は本来、本能的に「それはなぜ?」「これは何?」「こうしたら面白いのでは」と、既成概念に縛られない探求心(思考力)を持っていますが、「人と違う行動をとることを良しとしない日本の慣習・環境」により、徐々に「〇〇であることが当たり前」「〇〇であるべき」といった既成概念に捉われ、思考停止状態となり、そもそも論を問う「なぜ」という疑問を持つ力が大人になるにつれて弱まっていってると感じています。
また、日本では論理的思考力を鍛える教育に重きを置く傾向にあり、かつ、社会に出るとより論理=最適解に効率的にたどり着くための手順・考え方を求められる傾向があるため、その反動として徐々に(論理的な)型に捉われてしまい、批判的で柔軟(突飛)な思考が弱まっているとも感じています。
そのため、特に日本の環境(教育)下で、子供に批判的思考のクリティカルシンキングや水平思考のラテラルシンキングを身に付けさせることは、少し難しい部分もあると思いますが、まずは大人(親)である自分自身が上記のような思考があることを認識して、既成概念に捉われず子供と接することが大切だと思います。
以下は、保育の現場で見た既成概念に捉われた一例のお話しです。ご興味があればこちらご参照下さい。
保育とは④ ~子どもの無限の可能性を引きだすためには~
ただ、ここ最近は徐々に上記で述べた日本独自の環境を変える動きが子供・大人両方の環境で増えてきているため、少しずつかもしれませんが、世の中全体的にこれらの思考法が当たり前に養われる環境が整っていくかとも感じています。
それでは、次回は上記で述べた個々の思考法について、1つ1つより具体的な内容かつ実践的な事例を交えて紹介していきます。
次の更新まで今しばらくお待ちください。