待機児童問題と保育園不足問題 ~その2:【保育士の給料】根本的な原因と解決策~
※前回の記事「待機児童問題と保育園不足問題 ~その1:根本的な原因は何か~」の続きです。
保育士が増えない原因は何か
保育士が増えない原因は色々あると思いますが、今回は主に以下2つを取り上げます。
1.保育士の給料(給与)問題 〜保育園自身が給料改善できない実情〜
2.保育園と保育士のマッチング問題 ~保育士が描く保育(園)の理想と現実のギャップ~
まずは、1つ目の「保育士の給料(給与)問題」の原因と解決策について考えていきます。
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1)保育士の給料(給与)問題について
保育士が増えない理由の大きな原因が、給料の低さにあると考えられます。
保育士の平均月給は22万円と言われています。平均初任給ではなく、全年齢を対象にした平均月給です。
平成28年4月に保育士の給料4%増額を策定する予定ですが、それでも他の職業の平均収入と比べると低いのではないでしょうか。
どんなに子どもが好きで保育士になっても、給料の低さが原因で保育士をやめてしまう人がいることが現状です。
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保育士の給料問題の解決策に関する考察
保育園と社会福祉という立ち位置
保育園は社会福祉という立ち位置があり、2000年まで経営主体が市区町村と社会福祉法人に限られていました。
社会福祉法人とは社会福祉法に基づき、介護、保育等の福祉事業を行うために設立される法人で営利目的ではありません。
ここに営利目的である株式会社は参入することができませんでした。
待機児童が深刻化する中で2000年に経営主体制限が撤廃され株式会社も認められるようになりましたが、自治体の要綱などで経営主体は自治体と社会福祉法人に限られたままとなっている所が大多数を占めており、株式会社の参入はほぼ首都圏のみとなっています。
ここにも保育士の給料が低い原因があると考えられます。
認可保育所(保育園)は自身の力(努力)で給料等の待遇改善を行うことができない現状
つまり、社会福祉法人立の認可保育園は営利目的ではないので自分で経営を良くするために稼ぐことができないのです。
一般企業で考えると、「経営手法を考える→会社の業績が上がる→お給料があがる」となることも考えられますが、営利目的にあたるため社会福祉法人ではこれが出来ません。
そのため、保育園では、各保育園で独自のサービス(ビジネス)をして付加価値をつけ、保護者がその付加価値に満足した結果として支払った対価(お金)を保育士に還元するという仕組み(システム)を確立することができないのです。
しかし、保育園が独自に自分たちの給料を稼げない分、国が財源から保育士に+αの給料を出すことができれば問題にはならないのですが、結局、その財源がないため、現状のままだと「保育園が独自にお金を稼ぐことを規制→しかし、国が保育士の給料を補う財源は不足→保育士は増えない(また保育士や保育施設の質向上のための投資もできないので保育の質も上がらない)」といったことが原因となり、悪循環(デッドロック状態)になってしまいます。
認可保育所(保育園)自身が保育園の質・量を改善できる仕組み ~「福祉」と「サービス(付加価値)」の二重構造化へ~
確かに、福祉に営利(サービス業)という考え方を入れるのは危ないのではないかという考えもあり、理解もできます。
しかし、自治体が株式会社の参入を認め福祉と営利サービスの二層化構造にし、保育所が自ら考えサービスを生み出すようになれば、保護者が良いと感じたサービスに対価を払い、保育士に給料として還元することができるのです。
そうすれば、「よい保育(子育て)を行う→子どもがよい成長をして保護者はそれに満足する→その分(努力や専門性)の対価を適切に支払う→保育士に還元する→保育士の質も量も増える」という良い循環の仕組みが生まれ、保育業界全体の底上げになるのではないかと思います。
もちろん、上記で書いた通り、福祉に営利(サービス業)という考え方を入れることで保育園が営利目的に走り保育の質に影響が出るという懸念(危険性)があるのは分かりますが、何も手を打たず現状維持という形は、それ以上に保育の質・量ともに悪影響を及ぼす危険性もあります。
税金を増やして、その財源で保育士の給料を上げるということも重要かもしれませんが、上記で書いたように、「福祉」と「付加価値(サービス)」の2つの側面(二層構造)を持てるようにして、保育園が自分達でも保育士含む保育園の質・量を改善できる仕組みを作ることも今後考えていく必要があると感じます。
(そして、懸念される営利目的に保育園が走らないように、そちら側(懸念・デメリット・リスク)への規制を作り、適切に運用を回していく仕組みを作るべきだと思います。)
そうすれば、保育業界全体が自分たち自身の力で良い方向に動いていく大きな波が作れるかもしれません。
株式会社としての保育園 ~横浜市の待機児童解消への取り組み事例に学ぶ~
株式会社立の保育所での成功例は横浜市です。横浜市は平成22年頃には1500人を超える待機児童を抱えていましたが、2015年ではほぼ待機児童は解消されていると言います。
この原動力となったのは民間企業の積極的参入です。
かつて横浜市の認可保育所も横浜市立と社会福祉法人がほとんどでしたが、ここ数年で株式会社立の保育園が急速に増えていると言います。
この横浜市の前例を全国に広めていき、国からの補助金だけに頼らず保育所が積極的にサービスを提供しその対価を受け取ることが、保育士が増えない原因と考えられる保育士の給料の改善に繋がり、結果として保育士の増加にもつながるのではないでしょうか。
それでは、次は2つ目の「【理想と現実のギャップ】保育園と保育士のマッチング問題」に対する解決策に関して考えます。